あいさつ

 高齢化社会が進む中で2025年問題が取り上げられています。戦後の社会を支えていただいた団塊の世代の方々が75歳以上となり、全人口の5人に1人は後期高齢者となります。その方々の食事の問題は非常に大きいと考えます。現在死因の第7位は誤嚥性肺炎です。老齢化により、かむ力・飲み込む力が弱くなること。口腔の衛生が悪くなることが大きな原因となっています。私たちは誤嚥性肺炎を予防すること、安全で楽しく口から食べる事を目標に取り組んでおります。その一環として、毎年、和歌山県の後援をいただき、県民の皆様に嚥下障害について知っていただこうと県民公開講座を開催しております。

 今回は第10回県民公開講座「地域で取り組む嚥下介護をめざして」を開催するにあたり、公立能登総合病院 歯科口腔外科部長の長谷 剛志先生にご講演をお願いしました。先生は地域の高齢者を誤嚥性肺炎から守るために、「食力の会」を立ち上げ、料理教室を開催されるなど地域で活動されています。先生のお話を伺って、和歌山県でも活動に活かすことができればと思います。

 このご時世ですので、オンライン講演会といたしました。先生には現地から、私たちは会場で待機し、聴衆の皆様にはご自宅のパソコンやスマートフォンから視聴していただきます。質問等はオンライン上で受け付けます。尚、著作権が発生しますので録画や録音はお控えください。

 今後も県民の皆様や医療関係者の口腔ケア、摂食・嚥下障害に関する知識と技術が向上し、摂食・嚥下障害に悩む方々の環境が改善するよう取り組んで参ります。そのためにも皆様のご協力とご支援をいただきますようよろしくお願いいたします。

令和3年11月7日

NPO法人和歌山口腔ケア&摂食・嚥下研究会 理事長 藤原 啓次


プログラム

日時: 令和3年11月7日(日) 
午後1時から午後2時
座長: 藤原 修志 (藤原歯科医院 院長)    
演題:「食べる力」は生きる力!
~「活きる力」は口から食べること~
        公立能登総合病院 歯科口腔外科 部長   
長谷 剛志(はせ たかし)
(敬称略)


ライブ中にお答えし切れなかった質問に対する長谷先生からのお答えをご紹介します。

Q,小さい頃から咀嚼力が落ちているので、考えさせられます。食事の変化もあると思うのですが、衰えないような咀嚼力をつけるのにはどうしたらいいですか?老化が怖いです。
A,時々でいいので食事中によく噛むことを意識することだけでも違います。かむかむチェックシートの咀嚼回数を参考に自分の咀嚼を比較してみましょう。

Q,揚げ物などを食べると口の中に血豆がよくできます。何か問題があるのでしょうか?
A,口腔粘膜は薄いので、揚げ物自体の硬さや、ころもの硬さによって傷つくことはあります。特に病的意義はありません。

Q,今は元気な80歳代の親は、まだ介護とは無縁な状態です。予防や、咀嚼力を維持する効果的な伝え方があれば、と思います。さりげなく。
A,質問1と同じように時々でいいので食事中によく噛むことを意識することだけでも違います。かむかむチェックシートの咀嚼回数を参考に自分の咀嚼を比較してみましょう。

Q,誤嚥がきっかけで喘息の発作が起きます。かなり困っているので注意していきたいと思います。
A,誤嚥しやすい食品をピックアップし、食べ方や調理工夫(トロミ付与含め)を検討してはいかがでしょうか?嚥下機能の評価が必要です。また、喘息となれば専門機関の受診をお勧めします。

Q,最近コーヒーを飲む時に片側の口の筋力が緩んでいるのか右側からこぼれてしまいます。少し粉っぽい物をたべると気管に入るのか、むせてしまうことが多くなって来ているし、老後の家族の支えもですが、歳行くまでに今から自分でできることはやっていかないとダメだなと感じました。
A,普段の食事において、噛むこと飲み込むことを意識してみてください。


【抄録】


「食べる力」は生きる力!
       ~「活きる力」は口から食べること~

公立能登総合病院 歯科口腔外科 部長
長谷 剛志

 食べることは栄養の問題のみならず、生きるうえでの楽しみや喜びなど心理的満足を得るためにも大切です。しかし、食事中の誤嚥や窒息に不安があると、どうしても安全管理が優先し、食べやすい食事を選択しがちです。リスクマネジメントはもちろん重要ですが、それが過剰になると食べる機会や自由を安易に奪いかねません。人間にとって「食べる力」は、日々の「生活」を支える原動力です。そんな視点で「生活」という漢字をよく見ると「生きる」と「活きる」という、2つの「いきる」が含まれていることに気づきます。「生きる」は生物学的寿命(平均寿命)を意味し、「活きる」は健康で活動的に暮らせる寿命(健康寿命)を意味しているのではないかと考えます。

 さらに、「活」という漢字の成り立ちをみれば「氵(さんずい)」と「舌」から構成されています。つまり、「活」は、唾液と舌を連想させ、口腔の機能要素を表現している文字といっても過言ではありません。口から食べることによって「生きる」(平均寿命)から「活きる」(健康寿命)を導きましょう。まさに、口から食べる力は「活きる力」のバロメーターです。一方、老化や病気によって体力や気力の衰えとともに「食べる力」は減退します。リハビリやケアにより十分なサポートを行うことは大切ですが、背景にある個人の尊厳、療養環境や疾患、ライフステージへの配慮を忘れてはいけません。特に、人生の最終段階が近づくと本人や家族が最期をどう迎えたいか曖昧なまま食支援に取り組めば、食べさせるのか、食べさせないのか、その選択と方向性に疑念や疲弊が生じてしまうこともあります。本来、食べるという自発は最期まで残存します。たとえ、風前の灯火のなかにも食べたいと欲するのであれば、それを否定できるでしょうか。逆に、食べることを拒んだとしても、それもまた否定できません。今回の講演会では、ライフステージにおける「食べる力」の在り方と支え方について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。



謝辞

この度、県民公開講座を開催するにあたり、多くの方々のご支援、ご協力をいただきました。
心から感謝申し上げます。

NPO法人和歌山口腔ケア&摂食・嚥下研究会
会長 藤原 啓次

協賛企業
アストラゼネカ株式会社
いちご耳鼻咽喉科藤原クリニック
株式会社 ツムラ
株式会社 宮源
杏林製薬株式会社
セイコーメディカル株式会社
ニュートリー株式会社
藤原歯科
Meiji Seikaファルマ株式会社
                          (50音順)



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和歌山口腔ケア&摂食・嚥下研究会 本サイト
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